こんなブラック・ジャックはイヤだ

ブラックジャックは大人になってから、いわゆる大人買いってやつで文庫本サイズの漫画をすべてそろえて読んだ経験がある。
好きなエピソードはいろいろたくさんあるのだが、一本の映画にでもなるような濃密な話が一週間に一度の週刊漫画に連載されていたのだと思うと、本当に贅沢な話だと思う。

作者は言わずと知れた手塚治虫さんなのだが、手塚先生の作品は、コンビニの漫画の棚に置かれているちょっと分厚い一冊500円くらいの単行本でかなり読ませていただいた。ブッダ、火の鳥から陽だまりの樹、アドルフに告ぐなど、結構読んだほうだと思う。
コンビニ文庫と勝手に呼んでいるけど、あそこの棚に置かれるとなんだかついでに買ってしまいがちになる。
すごく買いやすいという魔法の棚なのだ(笑)

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最近、ツイッターでちょっと注目されているのが「 #イタコ漫画家 」というキーワードで、亡くなられた漫画家さんの絵やキャラクターを使って、新たな物語やパロディー漫画を描いている漫画家さんというかアマチュア絵師みたいな人たちのことを言っていると思う。

この人たちは圧倒的な画力があるのが普通に当たり前なのだが、漫画の中のキャラクターでなくても、例えば最近出てきたアイドルの似顔絵などでも、その憑依している漫画家さんのタッチで描けるということだ。ということは、その漫画家さんのここはこうするだろうなという癖とか表現の仕方とかをもう完全に自分のものにしているということになる。

それは単なる模倣ではなくて憑依であるということなのだ。
だから「 #イタコ漫画家 」といわれるのだろう。

これって、ものまねをする人にも言えるだろう。
ただその人のものまねをするだけでなく、もう一段階上にいくとその人が別の人の歌を歌った時のものまねや、その人が、全く確証はないのだが、その人はこういうことをするんじゃないかというものまねまで作り上げてしまうし、それが面白いのだ。
例えば、クリカンさんの「細川隆さんが救急車のサイレンの音だったら」というものまねなどは最たるものだろう。

コミケなどに代表される漫画の二次創作では、ここまでのクオリティーを保っているものはなかなかないだろうと思っている。思っていると書いたのは、いわゆる「薄い本」を私は表紙しか見たことがないからだ。
それぞれの嗜好に走ることは悪くないと思っているし、別に批判をする気はないということは先に述べておく。

イタコ漫画家の描く作品には、今現在の流行を取り入れたなんというか俗っぽさがあり、それがかなりおもしろい。
写真の #こんなブラック・ジャックはイヤだ の表紙にはピノコがスタバ片手にスマホをいじっている、という具合である。




そして、「 #イタコ漫画家 」というジャンルが出来上がったのは、やっぱりツイッターなどのSNSがあったからなのだろう。例えば、絵をかいて投稿すればそれなりの反響があり、それがどんどん拡散されて注目されることになる。
拡散のスピードはSNSがある今の時代が一番早いだろう。
そこでは、その作品や元の漫画家さんのファンにも知れ渡ることになり、ましてはその漫画家さんの出版元にさえ知れ渡ることになる。
今回は、それが手塚治虫さんの長女、手塚るみ子さんだったということで、ブラックジャックの絵をSNSに投稿していたのが「つのがい」さんだったということなのだ。そして生まれたのがこの本「 #こんなブラック・ジャックはイヤだ 」という単行本なのである。



読んでみると、キャラ設定が全くと言っていいほどおかしくなっているのがガチの原作ファンにとっては苦々しいところなのかもしれないが、かなり少数なのではないかと思われる。というのは、そこはかとない愛にあふれていると感じられるからだ。

ものまねもそうなのだが、長く続けていくにはやはり愛がないと無理だろう。それは見ている人にも伝わってくるし、愛がないとキュレーション問題のところでも書いたウェルクのようなもので、すぐに破たんしてしまう。
実際にSNSで感想などを見てみると好意的なものが多いようだ。まぁ、この漫画自体がSNSで生まれたものだからかもしれないが。

紹介文のところにブラックジャックのパロディーとかいているが、パロディーよりももっとなんだか温かいものを感じるのだが間違っているだろうか?
とくにピノコを交えた愛のあるストーリーはずるい。ほんとうにずるいと思う。
原作の中に少し垣間見えたブラックジャックとピノコの関係性を、手塚先生はわざとはっきりと書かなかったのかもしれないが、つのがいさんは(つのがい先生とかいたほうがいいのでしょうか?)ちゃんと描き切っている。
思わず温かい気持ちになるし、下手すれば涙ぐんでしまう。
こんな面白い本なのに、油断して電車の中で読んでいたりすると痛い目に合うこと間違いなしだ。




私がつのがいさんのことを知ったのはこのツイートが話題になった時である。

ピノコの描写がかわいくて、はっきり言って萌え狂った感じだ(笑)
そうじゃないのである、という言葉は、間違いなくまる子ちゃんのナレーションの人(キートン山田さん?)で再生されることだろう。

これで、つのがいさんのことを知り。過去のツイートを見て、画像をダウンロードしてしまい、スマホの壁紙にしていたのは誰にも言っていなかったが、ここでカミングアウトしてしまおう。

イタコ漫画家と言われる漫画家は、結局漫画家としてはオリジナルではないからなんとか、なんていう論説をみかけるが、全く何を言っているのか・・・と閉口せざるを得ない。
彼らが描く漫画は支持されて愛されているのだ。エンターテイメントの基本なのだ。
新しいジャンルが成立したことにまだ気づいてないのではないか、と思う。



この本の最後につのがいさんのブラックジャックを描くようになるまでの人生が描かれていたが、ほんとうに漫画に出会えてよかったね、と言いたい。
これからもひそかにツイッターで応援しています。

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