子猫

日本のアイドルとは、成長を楽しむコンテンツだという考え方がある。
アイドル文化が成長していって後になってそういう分析がなされたという感じだが、まさにその通りだと思う。

高校生くらいのまだ幼さを感じるような状態でデビューして、少女から大人の女性へ大人の男性へとの変化をテレビを通して見届けることができ、その成長を楽しむことができるコンテンツだ。
「大人になった」とか「きれいになったね」とか、そのような会話がいろいろな人間関係の間で交わされて、話題にもなる。
そしていずれ結婚して結婚を祝い、または苦々しく思い(笑)、まだメディアに出続けるならばその子供も見れたりしてまだまだその傾向は続く。そのころには同世代を生きているという感覚になる。
そして、いずれ一般的な病気にかかったりしてその一生を終えるまでがコンテンツなのだ。
ここまで続くのはまれなケースなのだけれど、だいたい女性の場合は結婚したらそこでいったん終了するのが基本的な傾向だろう。

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現代のアイドル文化は基本的にはこの考え方と同じなんだけれど、少し様相が違ってきている。
アイドルは無名の時代から注目し応援して、ブレイクして有名になるのが彼らのアイデンティティーのようなものだ。古くから知っていた、先見の明があったというのがそのアイドルのファンとして誇らしいことで、優越感に浸ることができる。アイドルの無名時代には握手会などで会話したりする機会もあって、その体験がまた彼らのファンとしての気持ちに拍車をかけたりする。

自分が無名時代から応援しているアイドルがブレイクするっていうことは、無名の優良株にしこたま投資して大金持ちになったような気分だと言えるのではないだろうか?しかもファンにはその「気分」がご褒美としてあるだけで、実質的な富など全く享受できることはない。ファングッズやCDを買って投資ともいえる購買活動を通してアイドルを支えてきた費用は全く返ってこないのだ。
それだけアイドルファンというのは純粋な心の持ち主だともいえると思う。

また、そのような「投資活動」はうまくいかない自分の人生の代償行為だという人がいる。某タワーレコードの社長なんだけど(笑)
その社長も幾多のアイドルを応援するためにレーベルを立ち上げたりして文化を支えている第一人者ともいえるのだが、その代償行為を悪いと言っているわけではなく、結果としてそうなっていると言っているのだろうと思う。
アイドルの成功を自分の成功と重ねたりしてカタルシスを得るわけだ。なるほど、人生にはいろいろな楽しみ方があるし、お気に入りのアイドルが有名になったりしたらそれはそれはうれしいだろう。

しかし、それが世界中で有名になりつつあるとしたらファンはどう思うだろう?



つまりBABYMETALの場合だ。
アイドルは成長を楽しむコンテンツだといった人でさえも、この事態は予想していなかったと思う。狭い日本だけの話だと思っていたと思うし、海外のことはその文章を読んでいる一般の我々でさえも考えていなかったという事態である。

目黒の小さな鹿鳴館というライブハウスで初お披露目となったさくら学院重音部ことBABYMETALなのだが、イギリスのウェンブリーアリーナで単独公演を行いチケットを売切れさせたり、今や世界的なバンドのオープニングアクトを務めたり、海外のフェスでその地元の人たちを熱狂させたりというダイナミックすぎるブレイクの仕方は、どう理解すればいいかわからないたぐいのもので、10年前には日本のアイドル文化から派生したグループがこのような状況になるということは、誰も口にしなかったし、そのような考えは頭の片隅にもなかったように思う。

重音部時代からのファンは、たぶんついて行っているだけで精いっぱいのような気がする。アイドルファンには、そのアイドルを「自分が支えている」という感覚があるというが、BABYMETALの場合は支えているどころか、ロープで縛られて車で引きずられながらもなんとかついて行っているような感じさえする。映画でよく見かけるシーンだ。たぶんその引きずられているファンは「ゆいちゃんひどいよ~~!」とか言いながら、顔はニヤニヤしているに違いない(笑)

いつも活動の発表の時には驚きしかない。そう、うれしいというより驚きの気持ちのほうが大きいような気がする。
成長を楽しむというような優雅な気持ちではなく、はっきり言って圧倒されているというような感じなのではないか。




なんでこんなバンドというかユニットというかアイドルが今まで出なかったのだろうと思うのだけれど、それにはメンバーのパーソナリティーや力量などの理由もあるが、今の世界からの日本への興味の高まりが少なからず影響していると思うのが自然だろう。
10年20年前にいまのBABYMETALが世界に出て行っても、これほど注目されなかったと思う。
「only in Japan」の言葉で表される日本という国の閉鎖されたガラパゴス的な文化に世界から興味が向いている昨今であるからこそ、BABYMETALも注目されたというか、外国人に発見されたというか。

今まで海外に出て行った人やグループでは、ピンクレディーや松田聖子などがいるがそれほどうまくはいかなかった。
日本で天下を取った人たちは世界を目指したがるが、日本国内で天下を取るということは日本の社会に適応しすぎたということなので、充分に宣伝活動を行ったとしても世界の基準には合わないのだろう。

BABYMETALはどうなるんだろう?
世界のほうが反応が良すぎて日本のほうが遅れてついて行っているようにも思う。
すばらしい活動をしながらも、まだまだのびしろは感じられる。それは世界においても日本においてもそうだ。

これからの活動でも圧倒されるようなものが増えるといいと思う。
「楽しむ」っていうような感覚にはもう世間は飽き飽きしているのだから。

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